Marcos Jimenez(マルコス・ヒメネス?)は読み方さえおぼつかないくらい馴染みのないピアニストだった。ある時ピアノ・トリオ一辺倒だった私の嗜好がソロ・ピアノに傾き、そういう頃に出会ったのが彼のソロ盤『I Thought About You』だった。艶のあるフレージングと心に沁みる演奏というありふれた形容しか思い浮かばないのだが、ある時ある状態の私の心に強い印象を残す作品となった。スタンダーズの解釈が他の奏者とは一線を画し些細なフレージングの末端にさえ美意識が感受された。では他の作品はどうだろうと芋蔓式に検索するのが私の常であるが他をあたってみると数枚ピアノ・トリオ盤を出しているようだった。ジャケットを確認すると一枚を除き所持していた。最新盤は去年発売されているらしいが本邦の発売がないようなのでドイツのアマゾンへ発注した。遠く欧州の輸入盤ゆえ到着は忘れた頃となるだろう。それはそれで楽しみなのである… そういう訳でトリオ盤をもう一度新たな耳線(?)で聴いてみようと思っている。刺激の麻痺しつつある近況における私的な明るいニュース。先ずはソロ・ピアノの極み「I Thought About You」を強くお勧めしたい。
2000年「After The Rain」 2004年「Songs For The Tree」 2008年「 Different」 2008年「I Thought About You」 2013年 「Awakening」 2015年「Three Words」
その少ない奏者の1人がラルフ・タウナーだ。クラシカルな技量から発せられるソロ・ワークの素晴らしさには唯々平伏するしかない。ウィンターコンソート、オレゴン等を経てECMでの活躍が顕著。その他多方面での活躍は一口にはダイジェストできない。私的には特に彼の奏する"Jamaica Stopover"というオリジナル曲が大好きである。跳躍するリズムとメロディとが一体となり醸す哀愁感の極み。子供のころ読んだお伽話の不思議な国の音楽のように強烈な感興を覚える。未聴の方がいらっしゃたなら是非にお勧めしたい。1989年録音ECMレーベル『City of Eyes』初収録、アナログではA面一曲目に盤中では唯一のソロ演奏だ。あと忘れてならないのがマーク・コープランドとの1993年の共演盤『Songs without Ends』で、ここではコープランドのピアノがタウナーのギターとセンシティブに絡み最高の演奏となっている。双方甲乙つけ難く両者必聴だ。http://youtu.be/uBGWkxwL7vU
国内盤ライナーは尊敬して止まない杉田宏樹氏の手になるが流石にエヴァンス通の氏は鋭くもロマンティックな筆致で言及する。エヴァンス74年『Intuition』にこのIrvin Rochlin作" The Nature of Things"が収録されているが、一体エヴァンスはどのような経緯でこの曲と巡り合ったのか? と問う。答えは歴史に埋もれたままと締めるが何と余韻を残すライナーであろう。
音楽にロジカルな理屈は不要だ。ひたすら心を静めて耳とを結ぶ所爲だけを希求する。ある時はバッピッシュであるが底流する美は #6 "Little B's Poem" ( B Hutcherson )に極まる。涙を誘ってやまない演奏だ。堆積した時間の哀しみが沁水のようにつたってくるからに違いないのだ。
#1 標題曲" I'm Confessin' That I Love You" この曲と言えばモンク。ソロモンクでのモンク節が絶対的な印象をもつので他の演奏を思い浮かべることができない。しかしこの唄はその神話を覆すかも知れない。ゾクゾクするほど好い。 #11 "Polka Dots And Moonbeams" これも好きな曲なので様々な唄を聴いてきたが、中でもなかなか好い出来の方だと思う。
この2曲が出色か。
The Minimum Trio 『I'm Confessing』 (2009年バルセロナ録音Nomad Jazz Records NJR002)
過日そんな無聊をかこってデビッド・フリーゼンとダニー・ザイトリンのデュオ盤を聴いた。フリーゼンとザイトリンのデユオ盤は何枚かあり以前ブログで採りあげたのが1996年録音1999年発売『Live At The Jazz Bakery』だった。今回の紹介盤は2000年発売の『In Concert』である。ライブ音源で4カ所の会場で収録されたもの。残念ながら録音年月のクレジットが無く『Live At The Jazz Bakery』とどちらが新しい音源かは分からない。しかし切れの好さでは今回の『In Concert』に軍配が上がる。こういう音楽を聴くと決まって抱く疑問がある。"私という現象"(宮沢賢治風に…笑)はどのような音の有り様(?)に対して感動を抱くのだろうか?というものである。その構造/仕組み/現象はどうなっているのだろうかという根源的な疑問が湧いてくるのだ。それはビル・エヴァンスのフレージングのカッコ良さはどこからくるのかと同様皆目わからない。わからないとわかりたいという原動力が必要となる。最近ジャズが面白くないと後ろ向きの発言が頻りの私だが暫しそんなネガティブな状況から離脱できそうだ。
Denny Zeitlin / David Friesen 『In Concert』 (Summit Records DCD265) # All Tune
閑話休題。
Francis Lockwood というピアニストがいる。確かな腕前のある幾分ロック寄りのピアニストの認識がある。確か弟もいてバイオリンを弾いていた記憶がある。そのフランシス・ロックウッドであるがBruno Micheliというハモニカ吹きと共演盤を1990年に作っている。淡白な筆致で描かれた海辺の風景画のジャケットが爽やかだ。大昔何の間違いか手離してしまった。以来、その盤のことが気になって仕方がない。どうにか再び入手できないものかと思っていた。何年も事あるごとに様々なチェックを入れているのだがサッパリ情報がない。ああ、やはりあの時手離さなければよかったのだという後悔の念だけが心の片隅に巣食って行った。しかし世の中は皮肉なものだ。諦めかかっていた矢先、過日普段は素通りする聖橋口のDUになんの気なしに寄ってみると、かの懐かしい海辺の崖のジャケット盤と邂逅したのである。実に**年振りの再会である。勿論直ぐに購入したのは言うまでもない。それは哀愁感に満ちたブルーノのハモニカとロックウッドの極美ピアノとが織りなす一幅のタペストリー。市場に流通しない訳がわかる。
Francis Lockwood / Bruno Micheli 『OPALE』 (JTB Productions JTB02)
過日リンクをさせて頂いているブログでドン・トンプソンがピアノで参加しているデュオのコ・リーダー盤を知った。(ドン・トンプソンについては昔『Countory Place』と云う盤紹介でアップした記憶がある。) もちろん言うまでなく早速アマゾンで発注をした。しかし同時期購入した国内の盤はとっくに着いているのだが何故かこの盤だけ到着が遅い。多分海外からの輸送であるため時間がかかっているのだ。待つ気持ちが強い分だけ時間が長く感じるのは人の常。その時間に比例し徒に膨らんでゆく期待値は否が応でも作品のハードルを上げる。そして往々にして落胆の結果を生むこととなる。しかし昨日到着した件の Neil Swainson &Don Thompson 『Tranquility』は別物であった。
開封ももどかしく早速聴いてみる。#2 "Smoke Gets In Your Eyes" ジェローム・カーンのスタンダーズが流麗でいて朴訥に響く。ニール・スワインソンのベースも訥々と好い。昔から思っていたのだがドン・トンプソンと共演するベーシスト、或はピアニスト、ヴァイブニストってどういう気持ちなんだろう? ドン・トンプソンが各楽器の恐ろしい使い手であるのだから演りにくいのだろうなぁとか要らぬ心配をしたりする。まあそんな瑣末なことはさて置き、この盤は実に好い。#4 "Tranquil" の美しくも重厚な安寧感はこの標題を体現している。そう言えば大昔、本田竹広が"National Tranquilty"という深い寛ぎの名曲を演奏していた。Tranquil:寛ぎをテーマにした曲に悪いものはないのだ きっと。そして#6 "Time Remembered"。云わずと知れた耽美的名曲。前振りが長くテーマを朧にした感があるが紛れもなくエヴァンスの意匠が込められている。待ちに待った名演だ、素晴らしい! #8"Everybody's Song But My Own" 終曲 #9"Never Let Me Go"と続きアルバムの完成度をさらに補完する。
ドン・トンプソンが念願のピアノに徹したのである。何事も諦めてはいけないという教訓でもある。
Neil Swainson & Don Thompson 『Tranquility』 (2012年Tronto録音 Cornerstone Records CRST CD141)
過日三日ほど徹夜に近いことをしてCD盤を選別して1000枚強の盤をDUに売った。好条件で買い取ると云うことなので普段聴かない盤を選んだ。その過程でついつい聴き込んでしまう盤が何枚かあった。その一枚がWong Wing Tsan Jazz Trio 『We In Music』であった。イヤハヤこれは凄いや!と思わず聴き惚れてしまった。
この盤をいつ入手したのかも全く記憶にないが初期の渡り鳥(?)のイラスト・ジャケ盤が好かった記憶があるのでその前後であろう。しかし何と沁みる演奏だろうか・・・#4 "It's Never Too Late To Meet Again"などまさに泣きながら演奏しているのではと思われる。